技術情報

水噴霧式吸気冷却の高効率化に関する研究

1.緒言

夏場の屋外での環境冷房として水噴霧による手法が国内でも普及してきた。この背景には、少ないエネルギー消費で平均粒子径が20μm程度の所謂セミドライフォグを噴霧できるノズルが普及したことが挙げられる。
この分野で活用されている「涼霧ノズル」を吸気冷却分野に応用することで、従来よりも少ない消費エネルギーで安定した常温空気の冷却を実現できる。
吸気冷却には広義のコージェネ、冷房用、機器冷却用など様々な用途があるが、流れ場におけるセミドライフォグの蒸発に要する「時間」に関する研究例は少ない。
本報では、流れ場における常温空気へのセミドライフォグの噴霧による冷却・加湿について、完全蒸発をキーワードに研究を行ったので紹介する。

2.実験方法

実験装置の写真および概要を図1,図2 に示す。
□600mm程度のアクリル製ダクトをメインとする装置で、ノズルからの水噴霧による温湿度の変化の連続計測に加えて蒸発完了点を測定できるのが特徴である。

常温空気はインバーターファン(11)により吸引され、ヒーター(8)および加湿用ノズル(9)によってメイン装置入口の温湿度を目的値に調整できる。
ノズル(5)により、噴霧した水粒子が蒸発するまでの距離を蒸発完了判定装置(7)を移動させることによって測定する。
温湿度計(4)の出力信号は、データロガー(2)、パソコン(1)によって記録し絶対湿度および露点温度を算出する。
今回の実験での代表的な可変パラメータは①入口温湿度②空気流量③噴霧水量④噴霧粒子径である。

3.実験結果

①入口温湿度②空気流量③噴霧水量④噴霧粒子径のパラメータを変更しておこなった実験のうち、以下の2パターンについて結果を示す。
・ 入口相対湿度を一定にして、入口温度と冷却温度(⊿T)を変化させた場合の結果(3.1)。
・ 入口温度を一定にして、入口相対湿度と冷却温度(⊿T)を変化させた場合の結果(3.2)。

3.1 入口相対湿度一定の場合の蒸発時間

入口の相対湿度を一定にしたもののうち、流速が3.3m/s、相対湿度が40%RHのときの実験結果を図3に示す。
図中の上のグラフは湿り空気線図上に今回の計測値をプロットしたもので、下のグラフは縦軸が蒸発時間である。
横軸はいずれも温度を示しており同一スケールである。
図の見方は、上のグラフの○が入口条件であり、⊿Tが2℃の場合が●、⊿Tが4℃の場合が▲である。
下のグラフの●および▲は上のグラフに対応しており、それぞれの蒸発時間が示されている。

40%RH時の結果は、各入口温度とも湿り空気線図では初期のプロットおよび⊿Tが2℃、4℃のプロットはほぼ直線関係にあり、この流速域では阻害影響の少ない良好な蒸発が確認できた。
蒸発時間は⊿T が2℃の場合に温度36℃時に0.27秒で、入口温度と線形比例している。⊿Tが4℃の場合は温度36℃時に0.70秒で、入口温度に線形比例するが、傾は⊿Tが2℃の場合より大きくなっており、より温度の影響を受けることがわかる。これは湿り空気線図において、各プロットでの飽和水分量との差は温度が高いほど大きくなっているが、矢印Aおよび矢印Bの長さが、Aのほうが大きいことから蒸発までの時間が変化することが確認できる。

3.2 入口温度一定の場合の蒸発時間

入口温度を一定にしたものについて、流速が3.3m/s、温度36℃のときの実験結果を図4に示す。
図中の上のグラフは湿り空気線図上に今回の計測値をプロットしたもので、下のグラフは横軸が相対湿度、縦軸が蒸発時間である。
図の見方は○●▲のプロットは図3と同様であるが、下のグラフは横軸が異なっている。上下のグラフの関係は、線分xおよびyが対応関係にある。

温度36℃の場合の結果は、湿り空気線図の各プロットの関係は図3と同様の傾向であった。蒸発時間は⊿Tが2℃の場合に相対湿度40%RH時に0.27秒で、入口相対湿度に線形比例して推移している。⊿Tが4℃の場合は相対湿度40%RH時に0.70秒で、入口温度に線形比例するが、傾きは⊿Tが2℃の場合より大きくなっており、より湿度の影響を受けることがわかる。これは湿り空気線図において、各プロットでの飽和蒸気圧との差は湿度が低いほど大きくなるから(矢印Cおよび矢印Dの長さの差)、蒸発までの時間が変化することが確認できる。

3.2 入口温度一定の場合の蒸発時間

図3、図4およびその他の条件における湿り空気線図上におけるプロットと飽和水分量(相対湿度 100%RH)までの差と蒸発時間との関係を表すグラフを図5に示す。両者は比例関係にあることが確認でき、また⊿Tによる。傾向の差もほとんど見られない。飽和水分量(相対湿度100%RH)までの差を利用することで、実験を実施していないポイントについても蒸発時間の予想を立てられる可能性がある。

4.実験とCFDの比較

実験結果の中から国内の夏場の気候を考慮して2つの条件を選び、CFD(熱流体解析)を行った。設定条件は、形状は3次元モデルとし、乱流モデルにはk-ε、状態は定常とした。ノズルのモデル化は、スプレーパターン(噴霧角度、水量分布など)は手動の測定値とし、粒度分布および流速分布はレーザードップラー粒子測定器の計測結果を用いた。
図6に解析形状、メッシュを示す。図7にノズル近傍の解析結果(水粒子の軌跡)を示す。

1つめの条件の実験結果を図8に、解析結果として水粒子の軌跡を滞留時間で着色して図9に示す。
軌跡が消える位置が蒸発完了点である。蒸発完了点は実験結果が0.7mに対して解析結果では1.4mとなっており、0.7m程度のずれが見られた。

2 つめの条件の実験結果を図10に、解析結果として水粒子の軌跡を滞留時間で着色して図11に示す。
蒸発完了点は実験結果が3.1mに対して解析結果では3.9mとなっており、0.8m程度のずれが見られた。

以上の比較において、実験結果と解析結果では距離として0.7~0.8m、時間に換算すると0.21~0.24秒程度の開きが見られた。この原因は、実験において10μm以下の粒子が蒸発完了判定装置では反応しないのに対して、解析では0μmになるまで軌跡としては残存するためである。ここで実験結果と一致する粒子径を求めると10~20μmの間であった。以上の2条件以外の比較検討も行った。ほぼ同様の結果となった。表1に実験結果と解析結果の比較をまとめておく。CFDも実用的に利用できることが確認できた。

5.まとめ

(1) セミドライフォグの蒸発時間は、今回の実験条件では⊿Tが2℃の場合0.5秒以下程度、⊿Tが4℃の場合1.4秒以下と非常に短いことが確かめられた。
(2) 蒸発時間は噴霧前の温度、相対湿度、飽和までの水分量と比例し、条件から蒸発時間の予測が立てられる。

5.おわりに

セミドライフォグを噴霧する一流体ノズルを活用することで、今まで技術的およびコスト的に水噴霧による手法が使えなかった分野に貢献する可能性を探索した。「時間」をキーワードとして研究を行ったが、セミドライフォグは吸気冷却用途に十分に実用性のあることが確認できた。今回報告できなかったパラメータについても研究を進め、さらに多くの分野への展開を探索していきたい。

文献

(1) 植村聡,河野忍,加藤彰,飯嶋和明:二流体同時制御による省エネ型水噴霧システムの開発その2,空気調
和・衛生工学会大会学術講演論文集,9-8~10(2004),1835-1838
(2) ファーナム・クレイグ,中尾正喜,西岡真稔,鍋島美奈子,水野毅男:ミストの蒸発冷却特性測定と制御方式
の提案,日本冷凍空調学会論文集(2009)Vol.26-№1,105-112

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