技術情報

ガスタービン燃焼用空気の完全蒸発水噴霧システムの確立

近年、地球温暖化の影響で、夏期におけるガスタービンの出力低下が顕著になっており、燃焼用空気の吸気冷却システムが注目されている。吸気冷却システムには水噴霧式、熱交換器式などがあるが、水噴霧式は、初期設備および運転コストが他法より小さいメリットがある。その中で、平均粒子径が20μm程度のセミドライフォグ®を噴霧する方式はその効果が特に大きいとされる。

本報では、セミドライフォグ®を用いた水噴霧式において、蒸発距離を従来よりさらに短縮するための開発を報告する。すなわち、蒸発距離の極めて小さいタイプのタービン等への適用を念頭に置いた。旋回流を用いたセミドライフォグ®噴霧の研究を行ったので、紹介する。

1. 実験方法

実験装置の概要を図1に示す。

φ560mmのアクリル製ダクトにより噴霧を
可視化できる。常温空気はインバータ付軸流ファンによって吸込方式で通風される。旋回部の形状を変えることにより、整流方式を変えられる。

今回使用した旋回部の形状を図2に示す。

流速分布の測定はタフトを設置して流れの方向性を、流速は風速計を用いて測定した。流速分布の測定は図1中の①~③の3箇所で行った。

噴霧実験は、入口温湿度を①、出口温湿度を④の箇所で温湿度センサーとデータロガーを用いて連続測定した。
ノズルの設置位置は②の箇所とし、レイアウトは図3に示す4通りである。また噴霧中にダクト内壁に付着した水粒子はドレンとして水量を計測した。蒸発距離は目視および手蝕にて測定した。

2. 実験結果

空気流量、整流方式、ノズルレイアウトを変更して行った実験のうち、次のパターンについて結果を示す。
空気流量は22.3m3/min(平均流速1.51m/s)に固定する。
整流方式は図2に示した旋回なし(TYPE1で角度をつけない)、旋回翼式(TYPE1:60°)、接線式(TYPE2)の3種類とし、ノズルレイアウトは図3に示したA~Dの4種類とする。

2-1. 流速分布
各整流方式における流速分布のうち、図1中の②の箇所で測定したものを図4に示す。
旋回がない場合と比較して、旋回流(TYPE1・TYPE2)では旋回流特有の流速分布となっていた。なお旋回翼式(TYPE2)の場合は、接線式(TYPE1)よりも旋回速度は小さくなった。また発生した旋回流は、中心付近で強制渦、外側で自由渦となる「ランキンの組合せ渦」の特徴を有している。

2-2.ノズルの噴霧粒子径分布
今回使用したノズルは涼霧ノズル(いけうち製)で、セミドライフォグ®を噴霧する一流体空円錐ノズルである。
涼霧ノズルの粒子径は位相ドップラ式レーザ粒子分析計(PDPA)で測定し、ザウター平均粒子径は20μm、最大粒子径は75μmであった。
粒度分布と粒子径ごとの総体積の比率の結果を図5に示す。
ノズルの噴霧粒子径は粒度分布を有しており、蒸発距離は最大粒子径に依存しているため旋回によりごく一部存在する一定以上の大きさの水粒子を意図的に除去することができる。

2-3.噴霧実験
各整流方式・ノズルレイアウトごとの噴霧実験結果を表1に、整流方式・ノズルレイアウトと蒸発距離との関係を図6に示す。


図表中のA~Dは図3のA~Dと対応している。どの整流方式でもノズルをAのように流れ方向に噴霧したときの蒸発距離が最長となり、Bのように流れと逆方向に噴霧したときが最短となっている。これは、流れと逆方向に噴霧すると気液の接触効率が大きくなり、蒸発が促進されるためである。
整流方式の比較では、旋回が強いほど蒸発距離が短くなった。これは、旋回流による気液接触効率の増大および遠心力により一定以上の粒子径のものがドレンとなるためである。また旋回流では噴霧位置と旋回強度のピークとの位置関係が重要であることがわかった。蒸発距離が冷却機長より大きくなる粒子径のものを選択的に除去することができる。
以上より整流方式とノズルレイアウトとのコンビネーションを最適化させることで、従前の半分以下の蒸発距離を実現できることが確認された。冷却機長が確保できない稼動機などへの適用に向けてさらに研究を進めていく。

3. 参考文献

(1) 石井聡,藤原知美,岩田直大,梅田信昭,中井志郎:水噴霧式吸気冷却の高効率化に関する研究,第18回微粒化シンポジウム講演論文集,(2009),167-169
(2) ファーナム・クレイグ,中尾正喜,西岡真稔,鍋島美奈子,水野毅男:ミストの蒸発冷却特性測定と制御方式の提案,日本冷凍空調学会論文集(2009)Vol.26-No.1,105-112

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